どうやら手袋をしてエアリアルシルクをする人間は珍しいらしい。
東京のスタジオでもLAのスタジオでも、手袋つけてエアリアルやる人を初めて見ました、と口を揃えて言われる。その道20~30年のベテランパフォーマーにすら初めて見たと言われるので、場所を変えても、時代を遡っても、かなりの少数派であることに変わりはないようだ。
この手袋スタイルは、もともと演技終盤のDNAスピンで手がずるずると滑ってしまうのをどうにかしたくて、色々な技法・手法を (素人の自由な発想という特権で) 片っ端から試し、特定の手袋をつけるのが一番ワークしたという試行錯誤の結果たどり着いたものだった。4分間の演技の一番最後になると、まつやにの効果も薄れ、手の滑り止めが効かなくなってしまうのだ。
私としてはそういった、特定の技のための極めて具体的な理由があって手袋をすることになったので、手袋をせずにエアリアルをする人の方が不思議なのだが… しかし、私が出会った100人以上の手袋をしないエアリアリストよりも、ただ1人の手袋をする私のアプローチに一般的な有効性があると唱えるのは、地球がこの宇宙の中心であり、夜空に散りばめられた無数の星々は我々人間のために作られたと主張するのと同じくらい都合が良すぎる世界観だろう。
それでもこのスタイルを異教徒の危険思想のように弾糾することなく、最後まで暖かく見逃してくれた頭の柔らかい (心も広い) 私のコーチ・副コーチ両氏には大感謝である。
—
手袋だけでもあれこれ目についたものをオーダーして、15種類は試したと思う。素材、形状、加工、摩擦、吸水、重量。実際に試してみると様々な理由でエアリアルでの使用に耐えないものが多い中、最終的に選んだ好きな手袋は2つあった。
一つはグリップ面が広い、ダブルキャッチ。

シルクドソレイユにも出演していたパフォーマーの友人から、シルホイールでこの手袋を使ってますよと教えてもらったものだった。
軽く、ふわりとしていて、手が一回りおおきくなったような感覚になる。手袋の表面だけでなく、内側にも滑り止めがついているのでグリップがとても強く、安心感のある適当な固さもある。
値段が安いので心置きなく使い潰せるのも良く、私はこの手袋を普段のカジュアルな練習用に使っていた。週に8回以上の練習で使うので、2週間も使えばボロボロになってしまう。
ついでに恐ろしく固い瓶の蓋を開ける役にも立ち、空中生活だけでなく家のキッチンやダイニングでも何回も助けられた。
もう一つ好きなのは、親指、人差し指、中指の3本の指先が開いたこちらの手袋。

真っ黒な地色に滑り止めのゴムの模様が、目立たない程度の光沢を持って刺されている。この滑り止めの光沢は明るいスタジオでも、舞台のスポットライトの下でも、適度に主張し、適度に隠れ、衣装の一部としても手に立体感を与えてくれる。
重さを感じないほど軽いのにしっかりとした密着感があり、空中で自分を守ってくれる安心感がある。
3本の指先が出ているのも、シルクを細やかに摘む指先のコントロールに都合が良い。本番や通し練では、私はこちらの手袋を使うようにしていた。
演技の実施を1%でも良くするためには、グリップの強さよりも指先の精密なコントロールが第一だった。
—
私のこの手袋スタイルが (おそらく) (多少は) 奇妙なものだとしても、私以外のエアリアリストだって、各々自分だけの独特なスタイルというものは持っているのだろう。
同じエアリアルを (そして同じ技を) するにしても、身体の使い方は本当に人それぞれだ。
例えば、誰よりもするするとシルクを登り第二の天性のように軽やかにエアリアルをこなすのに、地上では腕立て伏せの1回すらできないというプロパフォーマーも知っている。そんな訳ないだろう!か弱い女性ぶってるだけなんじゃないのか!と思うが、そうではなくて本当にできない。
私にはパワー的にとても真似できない難しい片手技をまるで単なる振り付けの一部のように軽やかにこなすのに、私には簡単に繰り返せる懸垂が1回もできないなど、本当にからかってるんじゃないかと思ったのだが、実際は使っている筋肉や柔軟性が全然違うだけなのだろう。
ある日の練習後に、私のコーチにも「手袋をつけてやってみてください!」と言って自信満々に (新品の) 手袋を渡したこともあるが、「手袋をつけた方が滑ります笑笑」と言いながらずるずると滑り落ちていくご様子だったし、人体というシステムは共通の設計図通りに歯車が噛み合う精巧な時計仕掛けと言うより、それぞれが度重なる修復と増改築の果てに独自の機能美を宿した迷宮のようなものらしい。
エアリアルを愛する人のための記事をまた書く予定です!
更新通知が届くので、良かったらご登録ください!(※無料)



