初めて (で一応最後のつもり) のエアリアルシルクの演技構成は、大会までの3ヶ月で100回の通し練をした。
厳密に4分の演技構成だったので、通し練をしていた時間だけで合計400分 = 6時間半を超えたことになる。
結果的には、それでも足りなかった。
このことから、選手としてであれ独立したアーティストとしてであれ、結果にコミットするならとりあえず100回は通して当たり前という基準を持っておくのは悪くないと思う。(200回を目標にしてもいいと思う)
100回の通し練は、ただ本番形式でフルで通すだけでなく、
- 必ず動画に記録する
- 1回ごとに動画を見て分析し、厳密に採点する
- 収集した採点結果から、成功率を細かく数字で分析する
ということを毎回していた。
具体的には、まず4分の演技の中で100ヶ所のチェックポイントを決めておく。例えば「ロールアップをする時、膝とつま先が綺麗に伸びているか」、「ヒップロックの時、腰の位置を肩と同じかそれ以上に上げられているか」「XXをする時、シルクが無駄に揺れていないか」、「YYのタイミングで、腰ではなく胸で大きく反れてるか」といった感じに。これを100ヶ所。
そして通し練をする度にMacbookに動画をエアドロして、時にはスロー再生しながら、100ヶ所それぞれができているかできていないかをスプレッドシートに0/1で記入していく。
そうすると、「ここの部分は直近20回の通し練で17回成功しているから成功率85%」のように、100箇所のチェックポイントの成功率がデータで見て取れる。
自分はいま何ができていて、何ができていないのか。
通し練以外のフリー練習の際はこのデータを元に、成功率が一番低い所を中心に、1%でもいいから理想の実施の成功率を上げるためにできる練習を全て行うだけ。
練習場の隅でラップトップを広げてカタカタやってたパフォーマーは自分以外に見たことがないが、こういうことをしていた。
100ヶ所のうち一番成功率が低い苦手な箇所であっても、本番までに90%以上はできていないといけない。
なぜその場所の成功率が低いのか? なぜ理想の実施ができないのか? これを動画を観ながら冷静に物理学的にも考察する。
100回単位で通し練をするメリットは週8回ルールのように単に集中学習/集中練習をしようという話だけではなく、正にここにある。
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まずは計画だ。闇雲に練習をしても効果がない。
あなたが一番やりたいことは何だ?
- 見る人に生きる勇気を与えるような、理想の演技がしたい
残念だがその課題は大きすぎて練習できない。もっと取り組みやすいものは?
- 2回目のドロップで、100%理想の実施がしたい
いいね。少しは現実的になった。では2回目のドロップで理想の実施の成功率が一番低い箇所は?
- 360°~540°のドロップに行く瞬間に、背中でクロスされてるシルクがリリースされる時に引っかかって勢いが止まる可能性が32%もある
ではその原因は?失敗した時、現象として何が起きている?
それを解決する仮説は?
- 動画を分析すると、背中で引っかかる時と、脇腹で引っかかる時の2パターンがあるように見える。衣装で工夫ができるかもしれないし、1周目のドロップの後半で少しだけ腰を反るといいのかもしれない
いいね、じゃあそれ全て実験しよう。
- 実験してみました。ダメでした
では実験の結果を検証しよう。
実験結果によって否定された仮説は?新たに生まれた仮説は?
その検証を元に、次の計画はどうする?
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これをずっと繰り返す。
この営みをデータに基づき適切にできるようにするのが、100回ルールの真の効果だと思う。
自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の責任で行動すること。たとえ失敗しても、過度に落ち込んだり環境のせいにしたりせずに、そのフィードバックを受けて、冷静に自分の内部の世界モデルを修正して、そのミスを繰り返さないようにすること。
この極めて単純な精神的アルゴリズムこそが、永遠に到る道なのだ (と思う)。単純な数学的法則に従うに過ぎないモノリスが木星全体を覆い、やがては太陽系を席巻してゆくように。
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ちなみに私はエアリアルについて全くのド素人だったので、「やったことないしよくわかんないけど、とりあえず3ヶ月で200回は通し練しよっかな」と極めて適当に200回という目標を立てていた。つまり1日も欠かさず練習した (The 8-Day Rule) として、毎日欠かさずに2~3回かーという感じ。
これは自分が慣れ親しんできた研究開発 (※本職) やスタートアップ企業で習ったやり方を自然と流用して、どういう結果が出せるか挑戦した行動とも言える。
東大で私の代のロボコンチームは世界優勝したのだが、その時も、具体的な回数は忘れたが彼らは通し練の回数を100回単位で数えていた。
まずは100回。その次は200回。その次は300回。
対戦形式の場合は、本番の相手を想定した仮想敵を相手に実際に試合をする。
内容が決まっていない即興的なセッションの練習なら、本番と同じで毎回違う「即興的な通し」をやる。
大学院生の頃にスタートアップに参画していた時、プロダクトのピッチも100回、200回は平気で練習した。
週8回エアリアル生活に入る直前までは会社経営をしていた (というか、非常識的に忙しい週8仕事の社長ポジションを退任したから週8エアリアル生活がギリ可能になった) のだが、クライアントへのプレゼンだって100回くらいは平気で練習する。
もちろん2時間フルのサッカーの試合なんかも100回単位でするんですかと言われたら現実的ではないかもしれないが、4分程度の演技なら100回単位で数えて良いだろうと思ったのだった。
しかしエアリアルは運動強度も高く、結果的に3ヶ月で100回が精一杯だった。大会直前期はコンディションを整えるために通し練をお休みしたりもしたし。
撮影や採点までしないカジュアルな通し練を含めた、普通の意味での通し練は~150回くらいはやったような気もする。
それでも大切な本番舞台では、練習で1度だって経験しなかった、想像すらしない致命的なミスをしてしまった。
100回では足りなかったな、200回やれば良かったな、とは今でも思っている。
この100回ルールは一つのベンチマークでしかないが、何にせよ本格的な舞台なら、自分がそうしなくても100回単位で通してくる連中が他にいることだろう。
つまり、最低でもそういう呪いにかかったタイプの個体やチーム (しかも私のようなド素人ではなく、熟練の) が相手になることは認識しておくと良いと思う。
戦う相手はいつも自分であり、同じコンペに出場したコンテスタントをライバルと捉えたことは私は最後までなかったけれど。
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