全力尽くしてもダメだったらそれもまた風流

始まりはいつも悪くない。

新しい体験に踏み出した時は全てが新鮮で、私を取り囲む未知の要素は、予期せぬ自分の変化と、これから起こるであろう冒険の予感を否応なく高めてくれる。
アルコールとカフェインと刺激的な人間の外交的な魅力とをまとめて一度に摂取した夜のように、弾ける心臓の鼓動は静まってはくれず、授けられた新しい目は、そこにあるなんて知りもしなかった世界の表情を拾い上げる。

だが、シーズンを重ねる毎に迷路は奥行きを増し、美しい錦は重く粗い裏地を感じさせ始め、大人しく見えたシルクは含み隠していた針を見せていく。

出会いというものはそのほとんどがうまくいかないものらしく、付き合いを続けていくうちに思い通りにならい時も出てきて、自分には無理かもしれないと思う時もあるだろう。

エアリアルシルクで言うと、例えば一時期練習をしていた離し技 (シルクから身体を完全にリリースし、自由落下中に宙返りや捻りなどをして、再び空中でキャッチ) は安定した実施に至らなかったし、180度を超えるようなスプリットでの安定支持も全くできる気配がしなかった。

しかし自分には無理かもしれないと思えるものには、

  • 物理的に不可能なこと
  • ただ、自分には届かないと思い込んでいること

の2種類があり、ほとんどのことは後者なのだ。

そしてその後者、つまりできないと思い込んでいることの多くは、単に正しいやり方を知らないだけなのだと思う。
ロールアップだって何ヶ月練習しても笑ってしまうくらい不可能で、YouTubeで目にした動画もその全てが実は合成に違いなく、自分は物理的に不可能なことをしようとしているに決まっているとしか最初は思えなかったが、正しいやり方を知れば簡単にこなせるようになった。

よく知られているように、何かを信じることは自己実現性を持つ予言としても機能してしまうので、一度できないと信じてしまったことができるようになる可能性はより低くなる。
とするときっかけは、やはりできると信じることなのだろう。

それでは、何かを本当に諦めた方がいい時とは、どういう時なのだろう?

自分より後から始めた人が次々とその技をできるようになっていく中で、自分だけが何ヶ月も取り残されてもう望みが無いんじゃないかと思え始めた時だろうか。これは身体の構造上、自分には無理なんじゃないかと本気で思い始めた時だろうか。恐怖が勝って、練習の実施自体ができない時だろうか。

私はどれもやはり違うと思う。なぜならそもそも諦める以前に、そういった状況証拠だけでは、できない原因が判明していないから。諦めた方がいいか悩む前に、自分がその技をどこまで理解して、何を何をどこまで試したのかを先に考えるべきなのだ。

なぜかというと、本当に多くの場合、私たちは自分の中で勝手に無理かもしれないという誤った結論を出してしまうから。うまくいかなかった実施を集めて、身体が硬いからとか、年齢が遅いからとか、怖いからとか、筋力が足りないからとか、いろんな諦めるべき理由を見つけては、これは自分には向いていない、これは自分には届かない、と分類してしまう。これではあまりにもったいない。
別に本当に不可能だと証明された訳ではないのに、思い込みで自滅的な早期撤退をしてしまう。正しいやり方さえ知れば、本当はもう少しでたどり着けたかもしれないのに。

実際には自分の力ではどうにもならないこともあるし、それを受け入れることが大事な時も当然あるだろうが、それはできない理由を完全に特定し、理解し、かつ自分ができることを全部やり尽くした後、本当に最後の最後のはず。
まだ原因を完全に特定していない失敗を理由にいちいち何かを諦めていたら、それ以上の関係になれる日が来ることはない。その先まで進もうとしていないので、当然のこと。

そして何かをひとつ諦めるということは、本心を無視して、無理に蹴りをつけようとすること。本当はできるようになりたいと思っているのに、でももう自分には無理だからと終わらせようとする。だから諦めようとしている自分と、そうしたくない本心の間で葛藤が起こる。
その本心は自分にしかわからず、諦めた方がいいかどうか聞く相手は、最後には自分でしかないのだろう。自分がどうしたいか。

何かを好きになり、いつかできるようになりたいと思うその気持ちは理屈ではなく、たとえ難しそうなので別の方向で行きましょうとコーチや他人に言われたところで、簡単に気持ちを切り替えられるものでもない。だからこそ、見切るというのは、もがきながらも手を尽くした後、完全な原因の特定と理解の後に、能動的な意思でその賭けを手放すこと。それは逃げではなく、本当に向き合った人だけが選べる撤退になる。

これが完全にできた時、本心から吹っ切れて、初めて気持ちよく解放されて、次に行けるのだと思う。
だからどうか、見切るまで徹底的にやって下さい。

なぜ思い込みで諦めてはいけないのかというと、中途半端な見切り方が癖になってしまうと、それが自分の成長様式になってしまって、違う相手・違う対象とも同じ結果を繰り返すことになってしまうから。

一度理屈ではない気持ちが芽生えたなら、もう自分にはどうすることもできないと思えるまで、少なくとも、理由を具体的に特定し、やれることは全てやったと思える状況になるまで、なり振り構わず出し尽くして下さい。

どんな結果になったとしても、途中で諦めて無理に蹴りをつけるより、ずっと自分のためになると思います。


月でシルクを結ぶ日 (布と器具の強度について)
体重何キロぐらいですか?と女性に訊くのはマナーとして憚られるが、成人のエアリアリストなら女性でも大体 200kg 前後くらいの体重は一般的な範囲内だと思う。もちろん体重の測り方はこうだ。器具