体重何キロぐらいですか?と女性に訊くのはマナーとして憚られるが、成人のエアリアリストなら女性でも大体 200kg 前後くらいの体重は一般的な範囲内だと思う。
もちろん体重の測り方はこうだ。
- 数メートルの高さから体重計めがけて落下する
- それを受け止めた体重計が (まだ物理的に破損していなければ) 記録したMaxの数値を控える
当然、落下する距離が長いほどあなたの体重は増える。エアリアリストは皆このことを知っている。(*1)
—
よく知られているように、システム全体の安全性は、最も弱い要素に制約される。(*2)
エアリアルシルクで使う器具はシルク (布) そのものの他に大抵の場合はカラビナ、スピンをするなら必須のスイベル、そしてシルク自体を取り付けるエイト環など色々あるが、もしどこかが壊れるとしたらそれは最も弱い器具なので、いくら強い器具を揃えても何かひとつ弱い器具が混じっていては意味がないことになる。

カラビナ、スイベル、エイト環の強度を表す数値はkNで表されることが多く、先に結論を書くと、およそ 2500kg で破断する 25kN 以上の数値が (信用できる) カタログに書いてあれば大抵のケースでは大丈夫だろうし、その程度の強度のものは容易に見つかるだろう。(*3)
—
では布自体についてはどうかと言うと、こちらは一般的なカタログスペックには安全に使える荷重 (WLL: Working Load Limit) や破断強度 (MBS: Minimum Breaking Strength) は載っていないことが多く、多くの場合は最終的には自分で試験を行うしかないような話になる。エアリアルシルク用途に実績のある布を購入する場合でも、カタログスペックにこれらの数値が載っていないならば厳密には同じこと。
それでもサーカス用途専門のサプライヤさんであれば破断強度を示していることもあって、参考になるのは例えばPrior Fitnessさんだろうか。

ここに掲載されているシルクの破断強度は要求値が 10kN で、実測値が 12.7kN という計測数値が示されている。右側の写真を見る限り、布を折り返して2本分の束のような状態で治具に掛けているように見えるので、その状態のサンプル全体が 12.70 kN で破断したと言う結果だろう。
これはカラビナ等で標準値とした 25kN と比べるとかなり弱い気もするが、(エアリアルフープ等と違って) 完全に自由落下する人体を受け止めることが (ほとんど・滅多に) ないシルクならそんなものなのかもしれない。カラビナやエイト環は元々クライミング等が由来の器具だろうから、ダンスやサーカス由来の布とは数値の体系や標準も違うということかもしれない。

長さ調整などに使われるデイジーチェーンやスリング類の要求破断強度も 10kN と言う数字が出てくることがあり、エアリアルシルクにおいて使用器材の基準強度というか、ひとつの現実的な水準は 10kN ≒ 1000kg ということかもしれない。(*4)
別のサーカス専用のサプライヤ、M-POLEさんで販売されているシルクの商品概要欄にもWIL 220kg と記載があり、これもほぼ 10kN に相当する。(安全荷重 (WLL: Working Load Limit) は、一般的に破断荷重の 1/5 が目安)
もちろん 10kN 程度の強度で安全を保証するつもりは全く無いが、逆に少なくとも、
- 10kN に満たない破断強度の布を使うなら、大人しい使い方をしないと危ない可能性がある (早い話がオススメできない)
- カラビナやエイト環の 25kN という数字だけを基準にしてシステム全体を見ると、布やスリング側の弱さを見落とす可能性がある、
くらいは言ってもいいだろう。
—
では我々エアリアリストとしては使いたい布を見つけた時に強度をテストしたい訳だが、物理学の基本的な理論では、物質の破断強度はその長さによって変化しない。例えば 50cm の布サンプルを引っ張ってちぎるのに必要な力は、エアリアルに使う 16m の布を引っ張ってちぎるのに必要な力と同じということになる。これは試験を実施するためには良い知見だ。
そして引っ張り試験の負荷を記録するためには、フォースゲージやテンションゲージ、あるいはクレーンスケールという器具を使うことになり、2000kg まで測れるものが 1~2万円 程度で購入できる。

前述したようにまずテストしたい最低基準を 10kN ≒ 1000kg (≒ 200kg WLL) とするなら 2本に折りたたんで 1000kg の力をかけたいのだが、それだけの負荷をかける方法は一般家庭にあまり転がっていない。
安易な妥協案かつ乱暴な思考実験として 1本あたり 500kg の破断強度は要求されると考えるなら、1本の状態のシルクを吊るして体重 50~55kg の人が 9~10人ぶら下がって大丈夫なら最低限のラインはパス、くらいが現実的なスタート地点かもしれない。(繰り返しになるが、全くいい加減な解釈なので話半分で解釈されたし)
—

より根本的な代替案として、どうしても使いたい布の強度が確認できない時は、重力環境が地球よりも弱い場所、例えば月面や、落下中の部屋の中でエアリアルシルクをするという手もある。
月面の重力は地球の約1/6なので、あなたが地球上でただぶら下がって大丈夫な布なら月面での派手なドロップにも問題ないだろう。(もちろん上のイラストのように野外で行う場合は宇宙服の重さ等も考慮しなければならないだろうが…)
2026年現在の現実的なファーストステップは、次の月ミッションの候補となる宙飛行士選抜試験への応募だ。
—
ここまでカラビナ以下をひとつのシステムと捉えたが、荷重経路を上に辿れば、長さ調節用のスリング類や天井へのアンカー、そして当然、梁や建物自体もある。
つまりアンカーや梁なども全て 10kN の破断強度は最低ラインとして確認すべきだし、分別のある大人としては 25kN を標準的な基準として確認すべきだろう。シャックルやリグプレート (リギングプレート) を使うなら基本的にそれらの要求強度も同じ考え方だ。
最終的なセットアップはプロのリガーさんと相談するとしても、この記事くらいの内容は感覚として知っておくと良いと思う。
独自のセットアップ作りに取り掛かる全てのエアリアリストへ。
ご安全に!
—
*注1: 例えばこちらのリール👇ではシルクではなくロープだが、参考値がわかりやすく表示されている。

*注2: これは実は、単純な直列構造では、という条件付きの話である。システム自体に冗長性、フェールセーフ設計がある場合は、最も弱い要素が直ちに全体の安全性を決定するとは限らない。だが、さまざまな理由により、エアリアルシルクのシステムに冗長性を入れるのは難しい。フェールセーフ設計だって、ネットやクラッシュマットを敷くあたりが関の山で、本番ステージ環境では難しいことも多い気がする。
*注3: 25kN は約2500kg の物を吊るした力を表すが、これは 2500kg の物 (人) を吊るしても良いよという意味ではなく、それを吊るしたらカラビナが破断するよという意味だ。冒頭に書いた通り女性のエアリアリストでも体重は 250kg くらいは見ておくべきだし、高さや技 (特に自由落下を含む離し技) によっては瞬間的な体重はもっと重くなるかもしれない。
2500kg で破断しうるなら、実際は十分余裕を持って 500kg くらいを実用上の上限と捉える、というような感覚で運用することになる。
(なお、カラビナ等の器具の破断強度は力がかかる方向によって違ったりもするが、ここでそこまで詳細に踏み込まなくても良いだろう)
*注4: 別のサーカス専用のサプライヤ、Uplift Activeさんで販売されているシルクの商品詳細欄には破断強度は 20kN とある。しかし素材についての記載には 900kg まで支えられる布 ("easy to climb and holds up to 900kgs") とも記載があり、こちらも 20kN というのは2本合わせてというように読める。
エアリアルを愛する人のための記事をまた書く予定です!
更新通知が届くので、良かったらご登録ください!



