工芸的に美しい漸近 (演技構成の作り方2)

前回記事に続き、エアリアルシルクの演技構成の作り方メモ後半です。

人によって才能も培った技術も違えば、エアリアルをやる理由だって違うでしょう。自分に合ったスタイルというのも人それぞれで、構成・コレオは好きなやり方で作っていいモノですが、それでもどなたかの参考になれば嬉しいです。

まず再掲ですが、私の場合は概ね以下の順序で構成を作ります。(上ほど重要)

  1. たったひとつの願いを決める
  2. 演技全体を通じて、どんな感情を届けたいかを決める
  3. 演技の展開に合わせて見せたい変化の順番を決める
  4. バリエーションや難度が十分か考えながら技を置いていく
  5. 自分の個性が盛り込まれてるかチェック
  6. できれば、つかみはOK的な要素を入れる

あとは実際に通しながら、疲労度や曲のカウントを見つつ調整。

この1~6のうち、基本的に数字が小さいものほど優先する。つまり、どれか2つが衝突・矛盾した場合は、数字が小さい方の要請を優先する。

今回は4~6についてです。

4. バリエーションや難度が十分か考えながら技を置いていく

スマホのカメラロールを無限にスクロールする楽しい時間はここからで、基本的には入れたい技をあれこれパズルピースのようにステップ3の骨格の中に配置していきます。

この時に考えるのを楽にするために、そして何より見る方にとっても多彩で飽きない演技にするために以下の 5要素 (+1要素) を入れるようにします。

  1. ドロップ
  2. スピン
  3. パワームーブ
  4. 柔軟ポーズ
  5. シルクらしい巻き技
  6. (できれば離し技)

上記全てに加えて、

  • 2パターン以上のクライムを入れること (工夫のあるクライムを入れること)
  • シルクの上から下まで全部の場所を使うこと

も条件にすると良いでしょう。

人間は特定の動作のみに最適化された産業用ロボットや狭いAIと違い、ひとつの同じ個体が全く異なる多彩な動作ができるという汎用的な知性が美しい造形物です。
例えば私というひとつの同じ個体が、空中でエアリアルをすることも、水中を泳ぐことも、ピアノを奏でることも、そしてこうして文章を書くこともできるという器用さと対応力が種としての我々の強みです。

ならばエアリアルの演技の中でも、ひとりの人間が多彩な動きを実現できるという特性を活かすのが本懐というもの。
もちろん強弱はあって良いのですが、バランス良く組み上げることで、作りやすく、かつ見ていて楽しい演技になると思います。

また、舞台のレベルやオーディエンスを想定して、

  • 期待される難度を十分満たしているか
  • 単発の技だけでなく、難しい連続・繋ぎがあるか

もチェックします。

このステップをざっと終えて技が決まれば、技と技の間の繋ぎ方、フローも半ば自ずと決まってくるので、ここまでで大体の構成・コレオは決まると思います。

5. 自分の個性が盛り込まれてるかチェック

ステップ4で概ね演技構成はできたと思いますが、通し練に取り掛かる前に、自分らしい個性が感じられるかという視点で構成全体をもう一度レビューすると良いと思います。

例えば圧倒的なパワームーブなのか、滑らかなフローなのか、それとも情景が浮かぶような表現力、あるいは意外性のある展開や、音楽と完全にシンクロする動きなのか。自分の強みを活かせば、独創的でありながらより自然という魅力的な演技ができて、振り付けに自分らしさを刷り込めます。

ステップ1~4の内容を犠牲にすることなくここを強化できるなら、構成にまだ手術を入れても良いでしょう。ただし、得意なジャンルの動作ばかりになるより、ステップ4の全体バランスを取る視点を優先させた方が良い演技になると私は思います。

個性を発揮できる技ばかりを置くよりも、色んなバリエーションの技や動きの中に置いて、それでもなお隠しきれないものが個性として際立つ長所だと、私には思われます。

6. できれば、つかみはOK的な要素を入れる

プレゼンの最初から、今回のこれはちょっと違うぞ?という期待感で相手の目を覚ますことができると良いのはビジネスのピッチと同じ。

すれ違うだけの人が人生を変えることもあるように、エアリアルシルクの演技にも、開幕直後の最序盤のうちに観客の目を引く展開、興味を引くつかみはOKがあるといいと思います。

ただし、これは最後の Cherry on Top (出来上がったケーキの上に、最後に加えるおまけ) のようなもので、もちろんあると良いが、他の要素を犠牲にする程ではないと思います。

(7. 実際に通しながら、疲労度や曲のカウントを見つつ調整)

ここまでで一通りの演技構成・コレオができたと思いますが、実際に通してみると、予想より遥かに手首の負担が溜まる箇所や、曲のカウントに間に合わせると忙しすぎる箇所、思ったより高さが足りない箇所、不自然な繋ぎになってしまう箇所などに気がつくと思います。

通してみて初めてわかる負担や物足りなさ、不自然さは永遠に出てくるもので、構成・コレオが最終決定することは決してありません。完成に向かってどこまでも漸近するだけで、私も自分の構成に随時変更を加え、限りなく更新していっていました。

演技の微かな不自然さは、以下のような点に現れます。(*1)

  1. 姿勢 (視線、軸、そして膝、足先・指先までが綺麗か)
  2. 技の実施 (正確さ、自然さ、繋ぎの丁寧さ)
  3. シルクコントロール (無駄な揺れ・絡まりが無いか・シルクを割る操作が滑らかか等)
  4. 観客との繋がり (目線、表情、観客を見て繋がりが持てているか)
  5. 音楽と合ってるか + 緩急・余白 (音楽のテンポに合う形で 静と動、間を取り入れているか、曲の雰囲気を動きや表情で伝えられているか)
  6. ただの作業になってる部分が無いか (全てが意図ある動きになっているか)

これらは一見、単に自分の技術が未熟な結果のように思いがちですが、意外と構成やコレオ自体に課題があることも多くあります。
例えば、ここで膝が緩んでしまう、シルクがスムーズに割れず慌ててしまう、オーディエンスと目を合わせる余裕がない、といった実施上の問題も、技の順番を少し入れ替えたり、握り方を変えたり、新しいポーズを間に挟んだりするなど、構成・コレオを少し変えるだけで簡単に解決することがありました。

また、初期の構成で数回通して自分の動画を観てみると、まだ、技、技、技、という作業感を感じると思います。

この先は実際に通し練を繰り返しながら、技と技の間のフローを整え、全ての動きが無意識に行えるまで刷り込み、ただの作業のような構成を、作品と呼べるまで調整していきます。

何回の通し練ができるかは状況によりますが、演技の全てを全く頭を使わずにできるようになった先に溢れる余裕が、舞台上で華がある人の正体だと思います。
その余裕が、例えば心からそのまま出てくる本当に自然な表情を生み、人の顔の表面の曲面、その微かな表現の差を見て、私たちは思わず嬉しくなったり、悲しくなったり、怒ったり、笑ったりするもの。

そんな風に、物語と二重写しで、工芸的な美しさを持つようなエアリアルシルクの演技が私は好きで、毎日毎日、目指していたものでした。

*注1): このリストは私が当時、資料まで作ってコーチングチームとも共有していた演技の完成度チェックリストほぼそのままです。
全部欲張ると練習の解像度がぼやけるので、明確に優先度はつけていました。(私はリストのうち、概ね上の方 (番号が若い方) を優先していました)


流れる
手放し率の話にも通じるのだが、シルクに登る前から一目見て特殊な訓練を積んだ人間だとわかるプロのエアリアルを見た時、最も意外に思えたのは、演技の中で実施する技の少なさだった。 あれだけの身体能力と技術があり、難しい得意技も沢山持っているのに、演技の中にはそれほど持ち込まず、技をしていない時間がとても長い。
不自由な選択肢
以前に成功や入賞ではなく失敗や敗退の数をノルマとして自分に課していくという話をしたが、挑戦し敗れることは実際のところシャレにならないくらい痛いので、経験した直後はそんな目標を立てた自分を呪いたくなるくらい後悔することになる。