以前に成功や入賞ではなく失敗や敗退の数をノルマとして自分に課していくという話をしたが、挑戦し敗れることは実際のところシャレにならないくらい痛いので、経験した直後にはそんな目標を立てた自分を呪いたくなるくらい後悔することになる。
何が祝福だ、ベンチマークだ、数を稼げだ。失敗や敗退の瞬間の身体の臨界的な反応はそんな標語を信用できず、頭の中でいくらこれは挑戦の証だと語りかけても、胃の底は冷え、手は震え、胸の奥で何かが折れて始末が悪い。
それでもほとんどの失敗は何も取り返しのつかない失敗というわけでもなく、そもそも禍福は糾える縄の如く、絶対的に取り返しのつかない失敗というものがあるのかどうかは、失敗だらけの人生を送ってきた私でも、まだわからない。
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エアリアルシルクにおける取り返しのつかない失敗というとまず思い浮かぶのは、落下事故で命を落とすとか、その後の生涯に渡って日常生活に深刻な影響を残すような大怪我を負うことだろう。シルクドソレイユのエアリアリスト、熟練のプロだったSarah Guillot-GuyardのKa公演中の落下死亡事故は (シルクではなくワイヤーリギングの演出中のものだが) あまりに有名だ。
私がよく知っていたエアリアリストの口からも、シルク練習中の落下事故の翌日に身体がベッドから動かなかったことがあるという話を (本人は明るく笑いながら話していたが) 聞いたことがあるし、私も十中八九エアリアルが原因でヘルニアになってしまってもう6ヶ月くらいずっと腰に激痛が走って脚に痺れが出るまで進行し、日常生活にも支障が出てロキソニンを飲んで過ごすほど。
こういった結果だけを切り取れば、それはもちろん望まれたものではなく、これらの結果を挑戦の証として祝福しても良いものかどうか、価値観は人それぞれだろう。もちろん怪我の結果がわかった後からは、そこまで攻めるべきでなかったと言うのは簡単なこと。それに、失敗がしたくて挑戦する人はいない。しかし真剣にスポーツに打ち込んで怪我をしたことが無い人がいないのも事実。
他人の身体を預かる指導者としてはもちろん選手に危険なことをさせる訳にはいかないし、一般に何かのシステムが本当に苦痛を経験する可能性があるなら、それは道徳的配慮の対象になる。そこは当然安全第一だし、例えば安全の手順をスキップすることは挑戦ではないので定義上失敗ですらない。
しかし自分の身体ならどうだろう?私は結局こうして生きているし、私自身は何かに全力で挑戦し、結果的に失敗して命まで落としてしまっていたとしても、それはそれで良かったのかもしれない (と思わなくもない)。何かを願わない人はいないし、願いとはそのような仕組みを持っている。
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それに、取り返しのつかない失敗で全てが終わってしまったとしても、その悪い結末にそれまでの良かった記憶の全てまでを差し出す必要はない。
Sarahはエアリアルの公演が原因で最後には命まで落としてしまったが、だからと言って彼女がエアリアルに打ち込んでいた時間、エアリアルを通じて嬉しかったこと、出会った仲間、楽しかった時間、それまでに見せた全ての輝きが忌むべきものに上書きされはしない。それらは今も変わらず輝きを放つ記憶のはずだ。
だから、最後に悪い結末で終わってしまったとしてもそれはたった一粒の出来事と捉え、それまでの楽しかった記憶の全ては、その結末とは無関係にあなたの人生の変わらぬ大切な記憶と捉えるべきなのだろう。人は結末の印象で記憶全体を塗り替える癖を持っているが、もしそれに逆らえるならば、ただ一つの出来事に、それまでの良い思い出の全てを汚させることはない。
記憶は永久の氷漬けではなく取り出すたびに書き直されるもので、上書きされる姿を決めるのは何を繰り返し思い出すか。輝きの側を思い出し続けた人だけが、その記憶を絶えず燃焼させ続けることができる。
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不可逆的な後遺症と言えば、怪我など身体的な望まぬ結果の他に人間関係の失敗もある。友達を失うことも決定的な失敗のひとつで、無くしてしまった友達を作り直すことはできない。だから友達は大切にしないといけない。しかしそれですら、失って識ることもある。(そもそも一般に、多くの友人関係自体が挑戦の結果生まれた関係なのだ)
振り返ってみると、望まぬ結果に終わったたくさんの挑戦がある。もちろんエアリアルシルクを通じたものも、そうでない多くのものも。
それらを失敗と呼んでも、別に呼ばなくても良いのだが、もし失敗と呼ぶのなら、その全てが絶対の挑戦の結果、犯さなければならなかった失敗だったと思う。選択肢なんてあって無いようなものだったし、今の自分でも過去の自分を止めることはできないだろう。
私もあなたも、単にその時の、他を選ぶことなどできなかった最良の選択をしてきたものと私は信じている。
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