消えないものから順に置く (演技構成の作り方)

自分だけのエアリアルシルクの演技構成を考え、組み上げていくのは本当に楽しい。
それは技や表現のレパートリーが増えた人だけに開かれる遊びであり、自分が何を見てきて、何に傷つき、何を美しいと思ってきたのかをひとつの演技に向けて引きずり出せる棚卸しの機会でもある。
(ちなみに私の場合は、最初の演技を創ったのはエアリアルを始めて9~10ヶ月目くらいのタイミングだった)

最初に考えが向かいやすいのは、構成に入れたい技のこと。画面収録やレッスン動画で埋め尽くされたスマホのカメラロールを永遠にスクロールしながら、このドロップを入れたい、このスピンも使いたい、この巻き方はカッコいい、と使いたい技の在庫リストを整理したことがない現代のエアリアリストはいないだろう。

だがそこから始めてしまうと、構成は簡単に、どこにも向かわない掴みどころのない寄せ集めになってしまう。演技構成は技を並べることではなく、たったひとつの願いに向かって、すべての技を従わせること。

初心者が何を偉そうにと思われるかもしれないが、この記事では私が自分の演技構成を作る際に使ったごく個人的なメソッドのメモを残しておこうと思う。書きながら感じたのだが、これは単なるエアリアル構成論でありながら、割と普遍的な舞台構成論としても通用する骨格になりそうだ。
次にまた自分の、あるいは誰かの (エアリアルに限らず何かの) 演技構成を作ることになった時も、きっとこんな考え方で進めるのではないかと思う。

先に結論を書くと、私の場合は概ね以下の順序で構成を作る。(上ほど重要)

  1. たったひとつの願いを決める
  2. 演技全体を通じて、どんな感情を届けたいかを決める
  3. 演技の展開に合わせて見せたい変化の順番を決める
  4. バリエーションや難度が十分か考えながら技を置いていく
  5. 自分の個性が盛り込まれてるかチェック
  6. できれば、つかみはOK的な要素を入れる

あとは実際に通しながら、疲労度や曲のカウントを見つつ調整。

この1~6のうち、基本的に数字が小さいものほど優先する。つまり、どれか2つが衝突・矛盾した場合は、数字が小さい方の要請を優先する。
今回の記事では、私が最も重要と考える1~3について書き、後日 (気が向いたら) 書く後半記事では4~6について書く。

1. たった一つの願いを決める

最初に決めるべきなのは、誰にも話さなくて良い、自分だけの秘密でも良い、この演技に込めるたったひとつの願い。
そもそも何のために、なぜ私は/あなたは、この演技を創るのか。以前に書いた通り、私は、芸術表現の核は何よりもここにあると思っている。

他の全てを犠牲にしても、何を支払ってでも、叶えたい願い。
そしてそれを、演技のどのポイントでどう表現するのかだけを決める。たったひとつの、5~10秒程度のパートでいい。演技のうち1箇所だけ切り取るとしたらどこか。それはなぜか。ここだけは絶対にこの曲のこのタイミングでやりたい、という表現は何か。
舞台上で何が一度だけ本当に起これば、それで自分は報われるのか。

その願いがすぐにわからない時は、一体自分は誰に届けたくてこの演技をするのかと考えるのも良い。一瞬だけしかその相手の印象には残らないのだとしたら、何を届けたいか。このひとつのパートのクオリティだけは極限まで上げること、これが全ての始まりであり、最後まで忘れてはならない中心戦略になる。

言い換えれば、演技全体を成立させるための中心点を先に打つ。暗い舞台の上に、最初にひとつだけ消えない灯りを置くように。
目を閉じて、曲を流して、この演技の中で一度だけ絶対に消したくない火がどこにあるのかを探せばいい。この一瞬が見つかった時、構成はようやく始まってゆく。

2. 演技を通じて、どんな感情を届けたいかを決める

次に、演技全体を通じてどんな感情を届けたいかを決める。

例えば、感動、驚き、力強さ、儚さ、自由、喜び、挑戦、孤独。極力ひとつだけのテーマ、主調があった方がいい。
観客の胸を強く押すような力強さかもしれないし、息が止まるような儚さかもしれないし、布の中から身体がほどけていくような自由かもしれないが、その感情とその表情が決まると、それに合った動きのスピードやメリハリ、表現方法が見えてきて、個々の技もその感情を運ぶための具体的な駒になっていく。
主題となる感情は技の上に後から塗る色ではなく、技よりも先に演技全体を満たしている重力場のようなものだ。

これは使う曲の主題と一体になって決まることも多いと思う。
私の場合は例えば勇気を主題にしたいと決めて演技を作ったので、以下それを例にする。

3. 演技の展開に合わせてどんな変化を見せたいかを決める

ステップ2の次は、その感情を曲の展開に合わせてどんな変化にして見せたいかという構成を決める。

例えば、静かに始まり、エネルギッシュな動きで盛り上げ、最後に余韻を残す。
あるいは、最初から力強く見せ、途中で感情の深みを加え、最後は自由に解放する。
そういった流れを具体的な技や身体捌きよりも先に決める。エアリアルの演技は感情を一枚の絵として見せるものではなく、時間の中でその感情が姿を変えていくところを見せる動きのあるものだからだ。
そしてこれは1と2が決まれば概ね自然と決まってくることでもある。

演技全体で勇気を主題にすると決めた私の場合は、単なる力強さではなく、不安や困難を乗り越えて前に進む気持ちをエアリアルシルクで表現するのが良いと自然と考えた。
そのためには、迷いからの決意、勇気を出して飛び込む瞬間、自分を自由に向けて解放する動きなどを順番に表現するのが良さそうだ。

そう考えると、曲の展開に合わせて

  1. まずは迷い・内省を繊細に表現 (演技序盤)
  2. 力強いパワームーブで決意を感じさせる (前半部)
  3. ドロップ技で挑戦する勇気を見せる (後半部)
  4. スピンと滑らかな流れで解放感に繋げる (終盤)

というストーリーに落とし込める。

(勇気ではなく例えば驚きを主題にすると決めていたなら、予想を裏切る展開、急なスピード変化、意外性のある技のつなぎ方を込めたストーリーに落とし込んでいたと思う。それはまた違う展開と構成になっていた筈だ)

使いたい技の在庫リストを漁る前に、こうして感情の変化、表情の展開を決めておくことで、どの技をどこに配置し、どんな繋ぎで結ぶかはかなり明確になっていく。技はそれ自体で意味を持つのではなく、冒頭に置くのか中盤に置くのか終盤に置くのか、どの沈黙の後に置かれ、どの速度で通り過ぎ、どの余韻へ観客を運ぶかによって、ようやく意味を持ってあなた自身に語りかけてくる。
床に近い場所で静かに始めるのか、最初から高く登って観客の視線を上へ奪うのか、あるいは板付きか、音先か。そういったことも、届けたい感情と展開が定まっていれば霧が晴れていくようにあなたにとっての正解が見えてくると思う。

最初の願い、届けたい感情、見せたい展開、この3つの前提が決まったなら、所与のものである会場の条件や使える時間などの条件も相まって、残りの4~6のステップはそれなりに自動的に決まっていく。
逆に1~3が曖昧なまま具体的な技の構成を進めようとしても、全ての要素がいくらでも揺らぎやすくなってしまう。

次回改めて纏めるステップ4~6は、ここまでで決めた演技の骨格を具体的な配列に落としていく、これまた本当に楽しい工程だ。


深夜の練習🗼
深夜に東京のスタジオを借りて、ひとりで練習する時間がとても好きだった。 私が夜半に借りる東京のスタジオは、2つあった。
手放すほど、上手くなる
私が尊敬するエアリアリストの一切の身体的雑音もない澄みやかなフローを見ていて気がついたのは、エアリアルシルクが上手い人ほど、シルクを支配しようと力を込める瞬間がほとんど見えないということだった。 つまり、手放すほどきっと、エアリアルシルクは上手くなる。